会議室の机に積まれたチラシの束。
「これ、どれくらい反響あったんだろう?」——誰も答えられないまま、次の案件へ。
そんな光景を何度も見てきた。
アナログ広告の価値を“感覚”で語る時代は終わった。どれだけ届いたのか、誰が反応したのかを可視化することで、紙媒体の可能性は再び拡張する。デジタルの視点を持ち込むことで、アナログ広告は“見えるマーケティング”へと進化する。
アナログ広告を「出して終わり」にしていないか?

企業や自治体が発行するチラシ、ポスター、パンフレット。多くの現場では、制作・印刷・配布までがゴールになっている。その後の成果は「問い合わせが増えた気がする」「街で見かけた人がいたらしい」という曖昧な感覚に頼っているのが現実だ。
一方で、デジタル広告の世界では、「どの媒体が何件クリックされたか」「どの時間帯に効果が高いか」といったデータが即座に把握できる。結果をもとに次の打ち手を考えることが当たり前になっている。
紙広告も同じように考えるべきだ。印刷した瞬間に終わりではなく、配布後こそが本当のスタート。もし反応を可視化できれば、配布エリアごとの反応率を比較し、デザインやメッセージを最適化できる。その結果、印刷費も無駄にならず、広告費の妥当性を明確に説明できる。「感覚のマーケティング」から「根拠ある広報」へ——その変化が、担当者自身の評価や提案力を引き上げていく。
デジタルの目とは何か?
“デジタルの目”とは、アナログ広告にデータの視点を与えること。QRコードを設置し、どこで・誰が・どんなタイミングでアクセスしたのかを記録する。

たったそれだけで、紙媒体が“反応する広告”に変わる。
数字が動く瞬間は驚くほど刺激的だ。これまで“届いたかどうかもわからなかった”チラシが、実際に人を動かしている証拠を目の当たりにできる。結果を見ながら仮説を立て、「次はデザインを変えてみよう」「配布時間を調整しよう」と、自然と考える癖がつく。
重要なのは、QRを貼ること自体ではない。データが“考えるきっかけ”になることだ。広告を「作って終わるもの」から、「育てて磨くもの」へ——デジタルの目が、その思考のスイッチを押してくれる。
見える化がもたらす現場の変化
効果が数値で見えるようになると、会話が変わる。「このデザインはクリック率が高かった」「このエリアでは想定外に反応があった」そんな分析をもとに議論が生まれ、現場の空気が前向きになる。

ある企業では、チラシ配布後に“QRコード経由のアクセスデータ”を集計し、部署横断で共有した。結果、「紙広告を起点にしたデジタル流入」という新しい成果指標が社内で評価されるようになったという。数字があることで、報告がしやすくなり、上司やクライアントに対しても自信を持って説明できるようになった。
企業だけではない。自治体や地域団体の広報でも、「市民がどの情報に関心を示しているのか」を把握できれば、次の施策の改善に直結する。“見えること”は、単なる効率化ではなく、地域全体のコミュニケーションを育てる第一歩なのだ。
アナログ広告の再定義
紙の広告は、デジタル化によって衰退するどころか、新しい可能性を得ている。“見える”ことで、広告は再び意思を持つ。そこから見えてくるのは、「届け方」よりも「どう受け止められたか」を重視する時代への転換だ。
紙は、手触りや重みを通して人の記憶に残るメディア。そこにデジタルの分析を掛け合わせることで、“感性と科学”の両立が生まれる。これこそが、アナログ広告が再び脚光を浴びる理由だと思う。

アナログ広告にデジタルの目を。その一歩が、企業や自治体にとっての“考える広報”の始まりになる。これからも、“見える広報”の輪を広げていきたい。
